アナルセックス!(挨拶)

第一回から二ヶ月足らずという長きにわたり、お付き合いを頂いたこの連載だが、今回で最終回である。
くぅ~疲れました。


最終回を記念し今回、特別にご紹介したいのは、「メガネBL」。

実は第二回、第四回に紹介した作品にもメガネ男子が関わっていたが、この程度ではまだまだメガネが足りない。深刻なメガネ不足のため、この夏をのりきれそうにない方も多いと思う。
 そこで2016年に私が読んだBLのうち、ベストメガネBLを2作続けてご紹介したい。

□■『背後にメガネ(著:雪路凹子)』■□


□■メガネ男子=???■□


まずは雪路凹子先生の『背後にメガネ』。
メガネ男子といえば、のび太よりもムスカをイメージする方や、どSかどMかわからないが、とにかく極端なキャラをイメージしてしまう方にオススメだ。

『背後にメガネ』という絶妙なタイトルにもただならぬ気配が感じられると思うが、
この作品のメガネ男子は濃い。

メガネという記号がマンガ文化の中で担ってきた「真面目」「頭脳派」「エリート」「クール」「執事」「観察者」「変質者」などの要素(当社比)を、全部乗せした上、間違って濃縮してしまったような男子が登場する。

彼がこんな厄介な個性なのは「メガネだから」としか答えようがないのだが、二次元世界での「メガネ」には、必要以上の説得力があるのだ。「メガネ」という属性の持つ「二次元的な文脈の力」をのばしきった作品とも言える。

こんなキャラクターはなまじの作品では支えきれないように思うが、頼もしいことに、絵柄も作風も濃い。華麗で緻密な絵柄によってシュールギャグが繰り広げられ、様々な花々、動物などが脈絡なく飛び出す。魔夜峰央先生の『パタリロ!』や、本橋馨子先生の兼次おじさまシリーズなどを、懐かしく思い出す方も多いのではないだろうか。

広大な屋敷に住む、どこかアンニュイな美少年と、彼に背後からよりそい、命令していないのに付き従ってくる怪しいメガネ。虚構度が非常に高い世界観とテンポを維持しているので、濃縮されたメガネ男子の全身を使ったボケも、磨き抜かれたレンズのようにより輝きが増すのだ。


あわせて、対極的な作風のメガネBLとして、新井煮干し子先生の『化学部のメガネ』も推薦したい。


□■『化学部のメガネ(著:、新井煮干し子)』■□


□■どこ向いてもメガネ!■□


このマンガには、メガネに関して驚くべき要素がある。 私は現実にそのような場面に出くわすことが多々あるが、この作品の舞台となる化学部は、全員がメガネをかけている。
ギャグマンガではないし、「テレビの中の世界」などの特殊設定でもない。「たまたま全員がメガネ」なのだ。

もう一度言うが、現実には、たまたま全員がメガネという4、5人のグループは珍しくないと思う。
この、現実にはわりによくあるはずの「全員メガネ」が、あまりマンガで好んで描かれないのは、絵的にも記号的にも「キャラがかぶる」すなわち「キャラが立てづらい」からだ。

メガネに限らず、「全員黒髪(ベタで塗られた髪)」がマンガ世界でなかなか見られないことも同じ理由だ。
そもそもBLは、短編が多いこともあり、メインのカップリングの二人を読者が見分けやすくするために、メガネとノーメガネ、黒髪と白髪、長髪と短髪など、非常にわかりやすい記号によって差異化するのが定石だ。

この『化学部のメガネ』は、記号化によってキャラを見分けやすくするというマンガの利点をあえて捨て、「全員メガネ」かつ、男性は「全員黒髪」「全員短髪」という、表現上の難題にチャレンジした作品だ。新井煮干し子先生の、これらの要素へのただならぬ愛とこだわりがなせる技であるし、このような趣向の作品で1冊の作品がまとまる(編集がOKを出す)のも、またBLジャンルならではと言ってもよいと思う。

序盤だけでも読んで頂ければわかるが、新井煮干し子先生の確かな画力は、「見分けがつかなくなるのでは?」という読者の不安を吹き飛ばしてくれると思う(ただし見開きあたり1秒などの、記号に頼った斜め読みをする方には難しいかもしれない)。じっくりと読むことにより、あらためて「メガネ」「黒髪」「短髪」という要素に頼らない、キャラクターそれぞれの細かな個性が、読者の心に届いてくる。

男子高校生の日常的な場面の積み重ねで丁寧に描かれていくストーリーも読み応えがある。ちょっとした遊び心のような会話で「つきあう」ことになった男子ふたりのわくわくするような、頼りないような、宙に浮いた不安な感じが、さわやかな海辺の空気とともに伝わってくる。

この作品が気に入った方には、ぜひ新井煮干し子先生の『ふしぎなともだち』 『アラウンド』も読んでほしい。

いかがだったろうか。今回「メガネ」という要素でBLを選んでみたが…この2作からだけでも、BLジャンルの作風の幅広さ、「ジャンルもの」(男性どうしの恋愛・セックスを描く作品ならなんでもあり)であるがゆえの自由さが、ある程度分かって頂けたのではないかと思う。

私がBLを選んで読んでいるのは、男性どうしの恋愛やセックスが確実に見られるからだが、改めて思うのは、それと同じぐらい、絵柄や作風やキャラクター、人間関係、感情描写についての新鮮な発見、まだ読んだことのない「いいね!」を求めて、私はBLを読んでいるように思う。

いや~、BLって本当にいいものですねえ。
 この連載を通じて、皆さんにも「いいね!」を伝えられていたら本望だ。


著者:金田淳子
ボーイズラブ・やおい・同人誌研究家。
1973年富山県生まれの永遠の17歳。
東京大学に学部生、院生時代を含めて15年ほど通っていた廃人。
共著に『文化の社会学』(佐藤健二・吉見俊哉編著、有斐閣、2006年)、
『オトコのカラダはキモチいい』(二村ヒトシ、岡田育、金田淳子共著、KADOKAWA、2015年)などがある。